失った歯を補うための治療法にインプラントを選ぶ人が、この頃ずいぶん増えてきました。あなたにも知り合いにインプラントを入れた人がいませんか?身近な人がインプラント治療をすると、自分にも合う治療なのかどうかが気になりますよね。けれども気になるのは、決して費用が安いとは言えないインプラントの治療費のこと。
そこで今回は、歯科医の臨床経験から見たインプラントのメリットとデメリットについてお伝えします。 (※今回の記事は歯科の有資格者のK先生をゲストライターにお迎えしてお届けします)
インプラントの費用対効果でみるメリットとデメリット
- メリット1:健康な歯を削る必要がない
- メリット2:見た目が天然歯(もともとの歯)のようで自然に見える
- メリット3:物をかみ砕く力が最も強い治療法で違和感がほとんどない
- デメリット1:手術が必要になる
- デメリット2:インプラントを支える骨の量が不十分な場合は手術できない事がある
- デメリット3:全身疾患や生活習慣、年齢などの条件によってインプラント適応とならないことがある
- デメリット4:治療期間は長く3ヶ月~1年かかることもある
- デメリット5:自由診療で費用が高額になる
- デメリット6:定期検診や歯磨きなどの治療後のメインテナンスがしっかりできない人には向かない
- デメリット7:インプラント治療で起こる偶発症がごくまれにある
- まとめ
メリット1:健康な歯を削る必要がない
ブリッジをセットする時のように失った歯の隣の健康な歯を削る必要がなく、ブリッジの土台になる歯の寿命を短くしてしまうリスクがありません。
メリット2:見た目が天然歯(もともとの歯)のようで自然に見える
インプラントの上部構造の人工歯の部分は選ぶ素材によって硬さや色、光沢、透明感などに違いはありますが、もともと残っている自分の歯に合わせて作られるので、とても自然で調和した仕上がりとなります。
メリット3:物をかみ砕く力が最も強い治療法で違和感がほとんどない
インプラントは天然歯の80%の咀嚼効率(物をかみ砕く力)があり、ブリッジや入れ歯などの他の方法に勝る最も高い咀嚼効率を有しています。
また、部分入れ歯のように入れ歯のクラスプと呼ばれる金属部分や入れ歯本体の違和感などを感じることが無いので、まるで自分の歯で噛んでいるように食事をすることができます。このため、インプラント治療は最も機能的・審美的に優れた治療法として多くの患者様にご支持をいただいております。
それではインプラント治療のデメリットとはどのようなものでしょうか?
デメリット1:手術が必要になる
インプラント手術には1回法と2回法があります。一般的に2回法は1回法に比べインプラントの感染リスクが下がります。どちらの手術法を選択するかは、患者様の術前の健康状態や口腔内の状態を考慮して決められます。
手術は局所麻酔で約1時間程度で終了し、即日帰宅していただけます。その後約7~10日程度で抜糸となります。その日のうちに仮歯まで入れることもありますが、かなり条件の良い場合に限られます。
デメリット2:インプラントを支える骨の量が不十分な場合は手術できない事がある
インプラントを支える骨の厚みや幅、骨密度が不十分な場合、手術ができないことがあります。条件によっては、足りない骨を補う手術を事前に行える場合もありますが、ケースバイケースなので歯科医師からお一人お一人の状態について詳しくご説明をお受けください。
デメリット3:全身疾患や生活習慣、年齢などの条件によってインプラント適応とならないことがある
手術の行えない全身疾患(抗凝血薬の服用、糖尿病、高血圧など)がある場合には行えません。また、治療の必要のある歯周病がある場合や、歯周病を悪化させる大きな要因の喫煙によってもインプラント手術を行えない場合があり、手術の器具をお口の中に到達させるためにお口が最低3cm以上開けられることも条件になります。そして満18歳未満の若年の方は、まだ顎の骨の成長が完了していないのでインプラントは行わないようになっています。
デメリット4:治療期間は長く3ヶ月~1年かかることもある
インプラント治療でフィクスチャーを骨に埋め込む手術をした後、フィクスチャーが骨にしっかりと固定されて安定するのに2か月~6か月かかります。若く健康な骨ほど回復は早くなり、年齢や骨の状態によって回復は遅れて長い場合には1年に及ぶこともあります。このため当初予定していたよりも治療を終えるのに長くかかる場合もあります。
デメリット5:自由診療で費用が高額になる
インプラントは保険適用外の自由診療になり、歯科医院によって自由に費用を設定できるようになっています。費用はインプラント1本あたり30~50万円が平均です。費用の中に術前のカウンセリング料や術後のアフターケア料、材料費などの諸経費が含まれている場合もあれば、別途計上する場合もあり歯科医院によって違いがあります。
また、万一インプラント治療に失敗し再びインプラントを行う場合、治療後一定期間内であれば無料や半額でやり直しを行う歯科医院もあれば、保障が一切無い歯科医院までまちまちです。そのため、治療開始前にインプラントの費用にどこまでが含まれているのか、また最低保障内容について歯科医院によく確認しておくようにしましょう。
デメリット6:定期検診や歯磨きなどの治療後のメインテナンスがしっかりできない人には向かない
インプラントの周囲にも歯と同じようにプラークと呼ばれる細菌の塊が付いて、歯周病と同じような病気が発現します。歯周病が歯周ポケットに沿って深部へと進行していくように、インプラント周囲の粘膜にプラークが原因でできた炎症がフィクスチャーの表面に沿って深部に進行していき、インプラントを支えている骨が破壊されて失われてしまいます。
この状態が「インプラント周囲炎」です。インプラント周囲では通常の歯のような血管網が少ないので生体の防御機能が弱く、通常の歯に起こる歯周炎に比べて自覚症状のないまま急速に進行してしまうからです。
この炎症はインプラント周囲の骨に及んでさらに重い骨髄炎に進行していきます。そして大変困った事にひとたびインプラント周囲炎になると、その治療法は確立されていないのが現状です。
そこで、くれぐれもインプラント治療をする前に歯周病をはじめとする口腔内の感染は徹底的に除去し、喫煙は止め、インプラント治療後も新たにインプラントに感染を起こさないように入念にメンテナンスをしていく必要があるのです。
※インプラント治療の歴史が長くインプラントが保険治療として行われているスウェーデンでは、インプラント治療を受けた患者の4人に1人はインプラント周囲炎に罹患していると報告されています。現在、日本での罹患率はそれ以上になっていることが考えられており、今後日本でもインプラント周囲炎に悩まされる方が増える事も予想されます。(引用:Clin Oral Implants Res. 2005 Aug16(4):440-6. Prevalence of subjects with progressive bone loss at implants. Fransson C,Lekholm U,Jemt T,Berglundh T.)
デメリット7:インプラント治療で起こる偶発症がごくまれにある
インプラント手術によってまれに神経の損傷が起こることがあります。インプラント治療の前に事前の検査を入念に行えば滅多に無い事ですが、軽度では数ヵ月で回復し、重症になると一生麻痺症状が残ることもあります。
さて、今回はインプラントの費用対効果でみるメリットとデメリットをお届けしましたが、いかがでしたか?
インプラント治療をする前に知っておきたいことがたくさん得られたのではないでしょうか?
高額な費用を払って受けるインプラント治療ですから、インプラント治療のメリットを最大限に発揮するためにも正確な検査・診断を基に適切なインプラント手術を行って、術後のメンテナンスをきちんと行っている歯科医院を選んで治療するようにしたいですね。(written by Dr.K)
まとめ
インプラントの費用対効果でみるメリットとデメリット
メリット1:
健康な歯を削る必要がない
メリット2:
見た目が天然歯(もともとの歯)のようで自然に見える
メリット3:
物をかみ砕く力が最も強い治療法で違和感がほとんどない
デメリット1:
手術が必要になる
デメリット2:
インプラントを支える骨の量が不十分な場合は手術できない事がある
デメリット3:
全身疾患や生活習慣、年齢などの条件によってインプラント適応とならないことがある
デメリット4:
治療期間は長く3ヶ月~1年かかることもある
デメリット5:
自由診療で費用が高額になる
デメリット6:
定期検診や歯磨きなどの治療後のメインテナンスがしっかりできない人には向かない
デメリット7:
インプラント治療で起こる偶発症がごくまれにある